2011年08月03日

榎本ナリコ 『センチメントの季節』



この漫画を人に勧めると、2〜3ページぺらぺらとめくって
「なんだ、エロ漫画じゃん」
と言うのだけれど、ちょっと待ってほしい。

まあ確かにエロ漫画には違いないのだけど、ただのエロ漫画ではないのだ。
ちょっと我慢して読んで欲しいのである。

『センチメントの季節』は、女子高生を主人公にしたオムニバスストーリー形式であり
その全てにセックスシーンがあるが、エロいというよりむしろけだるいと言ったほうがいい。
思春期の少女の性を、女性作者の自虐的で生々しい視点から描いている。

少女たちはみな物憂げだ。
自らの実質的な矮小さと、男たちが自分の性に群がってくるという事実との間に
どうしようもない不条理を感じている。
そして開花していく肉体とは反比例して、精神は不感症に陥っていく。

彼女たちは自分が花であることを自覚している。
そして、花が散っていくことも当然予見している。
彼女たちは退廃的にセックスし、金のために売春もするが、
それは快楽のためでなく、むしろ自傷的な衝動の成せる業であるのだと思う。
いや、もしかしたら快楽を求めること自体が自傷なのかもしれない・・・

読後、非常に虚無的な気分になるという稀有なエロ漫画である。

また、台詞回しにかなりのセンスを感じる。
じっとりとした部屋の中で、男と延々とセックスしている女子高生がその部屋を
「沼の底」みたいだと表現しているシーンがあったが、あれは素晴らしかった。

作者は榎本ナリコという方だが、僕は『センチメントの季節』以外読んだことがない。
きっとほかも面白いだろうと思うのでチェックしてみよう。



posted by sandman at 23:30| Comment(0) | 漫画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年07月20日

新井英樹 『ザ・ワールド・イズ・マイン』




まあ、読んで気分が悪くなった。

きっとみなさんもそうなるだろうと予告する。
しかも、一口に気分が悪いといっても、10人いたら10人分、色とりどりの気分の悪さ
をかみ締めることになるだろう、と。

しかしながら、読んで気分が悪くなるということは、僕にとってのこの漫画の
感想に大した影響を与えない。そもそも、人を意味もなく殺しまくる話なんて、
そりゃあ気分も悪くなるだろう。

この漫画を見て、その暴力性を心から楽しめる人も中にはいるだろうが、
この漫画はそもそもそういう連中をあまり相手にしていないと思うのだ。

正常に、健全に、気分が悪くなる、そんな普通の人をターゲットにした漫画である。

新井英樹はこの奇妙な漫画を通じて、巧妙に読者を「当事者」にまつりあげ、
挙句、どうにもならぬむき出しの矛盾をただ
「はい」
と、笑顔で手渡してくるのである。

まったく、わるいやつだ。
結局のところ、これは大部分が単なる作者の悪戯(テロ)なんだろうと思う。

イデオロギーと道徳とさまざまの利害関係をごった煮にして
「全部かき混ぜてガチでやってみたらどうなるか」
みたいな。

ここで書かれている悪夢の顛末は当然作者によって創作されたものである。
だが恐るべきは、新井英樹がほんの少し背中を押しただけのように見えることだ。
この悪夢はモンとトシによってのみ引き起こされたものでなく、周囲の人間の
コミットメントを得て形成されている、という意識を暗黙的に読者に対して抱かせるのである。

モンちゃんとかヒグマドンとか、ああいう非現実なほどの純粋な悪意に対して
ひどく人間くさい事情や感情をぶつけてくるのだ。

モンちゃんなんているわけない。
ヒグマドンなんて存在しているわけがない。

でも、犠牲者も
それを無責任に助長しているのも
面と向かって文句を言うのも、
自らの信念に基づいて必死に抗うものも
ただなんとも曖昧な気分でいるのも

こいつらはみんな存在し得るのだ。

まったく、この漫画で真にグロテスクな部分はここにつきると思う。
つまり、普通の人たちのリアリティーがグロテスクなのだ。
殺害シーンはグロテスクなのではない。
ただただ、絶望的で、リアルに「痛い」。それはもう、文字通り。


グロテスクな事情に自分自身が絡みとられて、いつのまにやら、知らない間に、
このよくできた悪夢に組み込まれている。

物語の中で、事態はどんどん酷いことになるけれども
みんなその酷いことを笑って無視できない。
馬鹿馬鹿しい、と一笑に付せない。
だって「自分のせい」でもあるから。

うーん
わるいやつだぁ。

おすすめの本では断じてないけど、もの凄い、とても無視できない漫画である。


posted by sandman at 23:01| Comment(0) | 漫画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年07月17日

松本次郎 『熱帯のシトロン』

一見、雑にも見える線の荒い、独特な絵を描く。
一瞬、なんだこりゃって思う。でもページをめくっていくと
時々、はっとするほどに魅力的なタッチの絵が現れる。

『熱帯のシトロン』は少し古めかしい雰囲気に包まれている。
僕は1970年代には生まれていないから、実体験はないけれど
話に聞く、あの時代の雰囲気だ。

革命とか、テロとか、学生運動とかドラッグとか
ビートルズもボブ・マーリーもいて、
ともかく「目に見える闘争」があった時代

そして暑い。ひどく暑い。
埃っぽい1970年代じみた世界をそのまま熱帯に放り込んだようだ。
そんなじめじめのなかで、みんな争ったり結託したり、露骨に性交したりする。
それが非常に生々しいのである。

携帯電話もインターネットも、クーラーだってもろくにないような
アナログな世界観のなかで、ぶっ壊れた登場人物たちが躍動し、トチ狂った物語が進行していく。

nettai_no_sitoron.png

女性キャラが秀逸なんだぜ。
僕はこの人の描く女性キャラを愛してやまない。

『熱帯のシトロン』のヒロインである魔子は漫画であることを忘れるくらいに
魅力的で知的でセクシー。そしてとびっきりにかわいい。

知らぬ間に、匂いが漂ってくるような濃密な漫画だ。
まさに、熱帯の果実(シトロン)の腐むほどに熟れた、甘くてきつい匂い。

それに耐えうる方であれば、是非、お試しあれ。






posted by sandman at 10:17| Comment(0) | 漫画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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